--- title: "フリーソフトと OSS の違いは?「無料か」と「自由か」は別の軸" description: "フリーソフトと OSS はどちらも無料だから同じ、ではありません。「無料かどうか」と「自由かどうか(ソースが手に入り、直せて、配れるか)」は別の軸で、有料の OSS もあれば、無料でも OSS でないものもあります。日本語の「フリー」が値段の話になった経緯から整理します。" url: https://ryuuneko.com/blog/freeware-vs-open-source published: 2026-09-12 20:46:41.92526 updated: 2026-09-12 20:47:36.757366 --- 「それ、フリーソフトだね」 無料でソースも出しているツールを、そう紹介されて引っかかりました。相手は間違っていません。無料なのは本当です。引っかかった理由は、**「無料かどうか」と「自由かどうか」が別の軸**で、こちらが出したかったのは自由の側だったからです。 先に答えを書きます。「フリーソフト」は日本語では無料のソフトを指すことが多く、はっきりした定義はありません。OSS(オープンソースソフトウェア)は、ソースが手に入って、直せて、配れる、という自由の側の話です。有料の OSS もあるし、無料でも OSS ではないものもあります。 この記事は、ありがちな行き違いを架空のやり取りで再現した記録です。根拠はフリーソフトウェア財団(FSF)の原文とオープンソースの定義(OSD)で、末尾にまとめてあります。 --- ## 配布ページを並べてみた 左が自分のツール、右が「フリーソフト」と呼ばれる例です。 | | 自分の配布ページ | 「フリーソフト」と呼ばれる例 | |---|---|---| | 値段 | 無料 | 無料 | | ソース | 公開(GitHub) | 非公開 | | 直す・配る | LICENSE: MIT(直しても配ってもよい) | この例の規約では禁止 | 無料なのは同じ。違うのは下の 2 行です。 ついでに自分の配布ページを見直すと、「無料で使えます」が一番目立っていて、ソースがあることは一番下のリンク名でしか分からない。読んだ人が「無料のやつ」と思ったのは、この並びのせいでもありました。 --- ## なぜ「フリー」という言葉が割れているのか この考え方を最初に広めたのは、フリーソフトウェア財団です。付けた名前は「フリーソフトウェア」で、free は自由の意味でした。ただ、本人たちも「タダとも読めて誤読されやすい」と書いています(出典 1、5)。言論の自由の free であって、タダのビールの free ではない、という有名な言い方もここからです。 だから区別するために、「オープンソース」という別の看板が作られました(出典 6)。割れた原因が、無料と自由の混同そのものだった。そして日本語の「フリーソフト」は、無料のほうの意味で使われることが多くなっていきました。 ![値段の軸(無料/有料)と自由の軸(ソースあり/なし)の 2 軸の表。無料の OSS、フリーウェア、有料の OSS、市販ソフトの 4 つが別々のマスに入る図](/blog/uploads/freeware-vs-open-source-matrix.svg) --- ## 「自由」の中身を、自分のツールに当てる 自由の中身は、FSF が 4 つに分けています(出典 1)。 1. どんな目的にでも動かせる 2. 中身を調べて、直せる(ソースが要る) 3. コピーを人に配れる 4. 直したものを人に配れる(ソースが要る) 2 と 4 は、ソースが無いと無理です。原文にも、ソースにアクセスできることがその前提だ、とあります。だから「ソースが手に入る」が自由の入口になります。 自分のツールは MIT でソースもあるので、4 つとも通る。 ![4 つの自由(動かす・調べて直す・配る・直したものを配る)を、自分のツールと「フリーソフト」の例に当てた図。ソースが無いと 2 と 4 が通らない](/blog/uploads/freeware-vs-open-source-four-freedoms.svg) 右側の、ソースを出していないほうに当てるとこうなります。 1. 動かせる 2. 調べて直す:ソースが無いので不可 3. 配る:この例の規約では禁止 4. 直したものを配る:ソースが無いので不可 動かせるだけ。無料でも、ソースが無くて配るのも禁止なら、自由の側には入りません。 ただし、フリーソフトが全部こうなわけではありません。FSF 自身が「freeware にはっきりした定義は無い」としたうえで、よく使われる意味としては「再配布は許すが改変は不可で、ソースは手に入らないもの」と書いています(出典 2)。配るのは許しているものも多い。規約しだいです。 よくある規約の例(架空)はこんな形です。 ``` 1. 本ソフトウェアは無料でご利用いただけます。 2. 本ソフトウェアの再配布を禁止します。 3. 改変・逆コンパイル・解析を禁止します。 4. 作者は一切の責任を負いません。 ``` 無料でも、2 と 3 でここまで縛れる。縛ること自体は作者の自由で、悪いことではありません。ただ、自分のツールとは別物だということです。 --- ## 訂正ではなく、足す 配布ページの「無料」の前に、1 行足しました。 ``` # tidy-text - 無料で使えます。 - ダウンロードはこちら + ソースは公開(MIT)。直しても、配り直しても OK。 + 無料で使えます。ダウンロードはこちら ``` 「無料」の前に「自由」を書く。読んだ人が、どちらの話かで迷わない。 紹介してくれた人には、訂正ではなく、足す形で返しました。 ``` 紹介ありがとうございます。 無料なのはそのとおりで、ソースも公開していて(MIT)、 直したり配り直したりもできます。 「フリーソフト」より「オープンソース」と書いてもらえると助かります。 ``` 相手は間違っていない。無料なのは本当。分けて言えば済む話でした。(架空のやり取りですが)次の日に「記事にオープンソースと追記しました。直して使っている人がいたら教えてください」と返ってきた、という筋にしています。相手も自由の側の話に入ってきた、というのがここの要点です。 --- ## じゃあ、有料の OSS は? 同じジャンルの配布ページを 3 つ並べます(架空の例)。 | | 値段 | ソース | 直して配る | |---|---|---|---| | A 社のツール | 無料 | 無し | 禁止 | | 自分の tidy-text | 無料 | あり(MIT) | OK | | 有料のエディタ | 有料 | あり(GPL) | OK | 3 つ目が「有料の OSS」です。有料なのに直して配っていい。禁止されていません。オープンソースの定義の第 1 条は「再配布を制限してはならない」で、無料にしろとはどこにも書いていない(出典 4)。FSF のほうはもっとはっきりしていて、有償で配ることを推奨するとまで書いています(出典 3)。 買った人がタダで配り直せるのに、それでも売っている。何にお金が付いているかは、また別の記事で。今日は「値段と自由は別」までです。 --- ## 「フリー」と言われがちなもの、3 種類 | 呼び名 | 無料か | 自由か | |---|---|---| | フリーウェア | 無料 | ソース無し・改変不可のことが多い | | シェアウェア | 試用は無料。使い続けるなら支払う | 規約次第。再配布・改変の条件は物ごとに違う | | OSS(自由ソフトウェア) | 無料のことが多いが、有料でもよい | ソースあり・直して配ってよい | 「フリー」の一語に 3 つが入っています。呼び名で決めつけると、ずれる。呼び名ではなく、書いてある条件を見ます。 --- ## 結局どうするか 1. **「フリー」と言われたら、無料の話か自由の話か、分けて聞く** 2. **自分のを説明するときは、「無料」より先に「ソースあり、直して配って OK」と言う** 3. **使う側のときは、無料でもソースと配布の条件を見る。** 無料で安心していたら直せないやつだった、はありそう 無料かどうかと、自由かどうかは、別々に決まる。どちらの話をしているかは、言う側も聞く側も、自分で分けるしかありません。 --- ※ この記事は 2026 年 8 月時点の FSF と OSI の原文を確認して書いています。配布ページ・規約・コメントのやり取りはすべて架空の例で、実在の製品や会社は指していません。「フリーソフト」は日本語の用法の話で、英語の freeware と完全に同じではありません。法律・規約は概要の説明なので、判断は各ライセンス本文で確認してください。 ## 動画版 同じ題材を、YouTube「黒猫開発部」では 2 人の会話で扱っています。動画は 2026-10-06 公開予定です。 - [チャンネル: 黒猫開発部](https://www.youtube.com/@黒猫開発部) ## 出典 1. [GNU プロジェクト — What is Free Software?](https://www.gnu.org/philosophy/free-sw.html) — "'free software' is a matter of liberty, not price." / "think of 'free' as in 'free speech,' not as in 'free beer.'" / 四つの自由と "Access to the source code is a precondition for this." 2. [GNU プロジェクト — Categories of Free and Nonfree Software](https://www.gnu.org/philosophy/categories.html) — "The term 'freeware' has no clear accepted definition, but it is commonly used for packages which permit redistribution but not modification (and their source code is not available)." / shareware の節 3. [GNU プロジェクト — Selling Free Software](https://www.gnu.org/philosophy/selling.html) — "we encourage people who redistribute free software to charge as much as they wish or can." 4. [Open Source Initiative — The Open Source Definition](https://opensource.org/osd) — 第 1 条 "Free Redistribution — The license shall not restrict any party from selling or giving away the software … The license shall not require a royalty or other fee for such sale." 5. [GNU プロジェクト — Why Open Source misses the point](https://www.gnu.org/philosophy/open-source-misses-the-point.html) — "The term 'free software' is prone to misinterpretation: an unintended meaning, 'software you can get for zero price,' fits the term just as well as the intended meaning." 6. [Open Source Initiative — History of the OSI](https://opensource.org/history) — "it would be useful to have a single label that identified this approach and distinguished it from the philosophically- and politically-focused label 'free software.'"